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霞ヶ浦における水循環過程について研究

はじめに

 霞ヶ浦は,茨城県に位置し日本で琵琶湖に次ぐ2番目に湖面積が大きな湖である.霞ヶ浦は霞ヶ浦(西浦),北浦,常陸利根川の三要素で構成されており,常陸利根川を通じて利根川下流に接続されている.霞ヶ浦は農業用水や工業用水,上水道にも活用されているほか漁業も盛んに行われている.しかし,夏季には悪臭などの被害が報告されており,過去にはコイの大量酸欠死などの養殖業に打撃を与えるような環境被害が報告されている.特に夏季に顕著に現れる貧酸素水は,湖の生態系へ強い影響を与えている.霞ヶ浦は平均水深4m程度と浅い湖であるが,夏季の強い太陽放射により強い成層が発生することで上下層の物質輸送が妨げられることで底層への酸素輸送が滞り,貧酸素水が発生する.霞ヶ浦における水環境問題は多数報告されているものの,物理的なプロセスが未解明なために水環境そのものの形成過程が明らかとなっていない.霞ヶ浦における流体力学的な物理プロセスを把握するために,現地観測や数値シミュレーションを用いた研究を行なっている.本研究室では特に北浦を対象に調査を行っている.
 
 Figure 1. 霞ヶ浦の地形(左)と混合と貧酸素水発生の模式図(右)

高解像度曳航式観測装置を用いた調査

水循環構造を把握するには,詳細な実地調査を行うことが必要不可欠である.詳細な物理構造を調査っするために曳航式の観測装置YODA Profiler (Masunaga and Yamazaki, 2014)を用いた調査を行った (Figure 1).YODA Profilerは水中構造を高空間分解能・高時間分解能で観測するための観測機械であり,水温,クロロフィル-a,DO(溶存酸素),水深,濁度を計測するセンサーを搭載している(Figure.1).本機は小型であるためスペースの限られた小さな船を用いても観測を実施することが可能である.通常の鉛直方向の観測では観測点まで移動・停止を繰り返す必要があるため時間がかかる一方,本機は観測点から観測点までを移動しながら観測することが可能なため観測時間を短縮可能である.調査の結果,夏季に形成される層状の水温分布が風によって空間的に変化する様子や,それに伴い低酸素水も分布を変化させていることが明らかとなった(増永ら2019).
 
 Figure 2. 霞ヶ浦北浦における観測点及び観測ライン(増永ら2019)
 

高解像度曳航式観測装置を用いた調査

水循環構造を把握するには,詳細な実地調査を行うことが必要不可欠である.詳細な物理構造を調査っするために曳航式の観測装置YODA Profiler (Masunaga and Yamazaki, 2014)を用いた調査を行った (Figure 3).YODA Profilerは水中構造を高空間分解能・高時間分解能で観測するための観測機械であり,水温,クロロフィル-a,DO(溶存酸素),水深,濁度を計測するセンサーを搭載している.本機は小型であるためスペースの限られた小さな船を用いても観測を実施することが可能である.通常の鉛直方向の観測では観測点まで移動・停止を繰り返す必要があるため時間がかかる一方,本機は観測点から観測点までを移動しながら観測することが可能なため観測時間を短縮可能である.調査の結果,夏季に形成される層状の水温分布が風によって空間的に変化する様子や,それに伴い低酸素水も分布を変化させていることが明らかとなった(Figure 4. 増永ら2019).
 
 Figure 3. 霞ヶ浦北浦における観測点及び観測ライン(増永ら2019)

 
 Figure 4. 霞ヶ浦北浦におけるYODA Profiler観測結果(増永ら2019).(a)湖中央部(釜谷沖)における水温の鉛直時系列,(b)風向風速の時系列,YODA Profilerにより取得された期間AとBにおける(c, d) 水温,(e, f) 溶存酸素,(g, h) 植物プランクトン分布.

 

乱流強度推定技術を用いた鉛直輸送過程の調査

鉛直的な水循環に伴う酸素等の底層への輸送過程を調べるには,乱流強度を推定し鉛直拡散係数を求めることが必要である.乱流強度の推定には高い技術を必要とするが,乱流微細構造観測装置や高速応答水温計を用いることで霞ヶ浦の乱流強度,鉛直拡散係数や鉛直酸素フラックスの推定を行うことができる技術を確立した(Masunaga et al., 2023).北浦において観測したデータの一例をFigure Xに示す.観測結果の解析から,夏季の霞ヶ浦では1日周期で午後に発達する海風により強い混合(水循環)が発生し,底層へ酸素を供給していることがわかった.また,西浦と北浦の二つの湖の混合状態を比較した研究からは,湖面積と湖の形の違いにより西浦では北浦に比べより強い混合と水循環が発生していることがわかった(佐藤ら2022).
 
 Figure 5. 霞ヶ浦北浦で観測されたデータ(Masunaga et al., 2023).(a)水温,(b)浮力振動数の2乗,(c)鉛直平均した勾配リチャードソン数,(d)水深1.2mにおける鉛直拡散係数,(e)溶存酸素,(f)鉛直平均した鉛直酸素フラックス.(a)(e)内の破線は水面より水温が0.5℃低い表層混合層を示す.

 

高解像度数値シミュレーションを用いた水循環の再現

高解像度数値モデルSUNTANSを用い霞ヶ浦へ流入する河川水の動態や湖水の循環過程の調査も行っている.

Video 1. 霞ヶ浦における水循環の再現モデル.河川から流入した水を青系色で示している.