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全球沿岸域の海面上昇による浸水予測と被害額推計 四栗瑞樹

     

海面上昇による影響とは?

 20世紀半ば以降に観測された地球温暖化の影響として、大雨・洪水,海面上昇等が確認されています。IPCC第5次評価報告書では、放射強制力をもたらす大気中の温室効果ガス濃度がどのように変化していくのかを、RCP(Representative Concentration Pathways)シナリオによって示しました。このシナリオに基づく2081~2100年における世界平均海面水位の上昇量は、0.26~0.82mの範囲に入る可能性が高いとされています。そのため海面上昇が発生した場合、沿岸域における浸水の危険性が増大し、物理的、経済的な影響が生じることが指摘されています。また、多くの沿岸域では、人口が集中しているため経済活動も盛んに行われており、気候変動や海面上昇が沿岸域に及ぼす影響を全球規模で予測し、各地域、各国が採るべき対策を検討することは地球環境問題に対峙する上で重要な課題のひとつであると言えます.これらのことから、海面水位上昇量に潮汐変動,特に大潮の満潮時の潮位偏差を考慮することによって、潜在的な浸水による物理的な影響を浸水面積、影響人口として求め、さらにSSP(Shared Socio-economic Pathway)シナリオに基づいた人口や経済力の将来予測から、浸水による経済的な被害の推計を行います。

浸水面積

 RCP2.6、RCP4.5、RCP8.5における浸水面積は、潮汐を考慮した場合、2100年においてRCP2.6 で37万km²、RCP4.5で約39万km²、RCP8.5では約42万km²となります(Figure.1)。地球温暖化が最も進むRCP8.5において、2100年の浸水域を表すと、中国、カナダ、べトナム、アメリカなどに浸水域が広く見られました(Figure.2)。また2100年の浸水面積及び国土の浸水率を国別に見ると、RCP8.5において、浸水面積が最も大きいのは中国で約6万km²、国土の浸水率が最も大きいのはバハマで約30%と推計されました。


Figure 2. 2100年の浸水域(RCP8.5)
  Figure 1. 浸水面積の経年変化

影響人口

 影響人口は、2100年にはRCP2.6とSSP1(地球温暖化が進行せず経済成長をするシナリオ)で約 5,500万人、RCP8.5とSSP3(地球温暖化が最も進行し経済成長をしないシナリオ)で約1億人の人々が浸水の影響を受けることが推計されました(Figure.3)。また、国別の影響人口は2100 年においてRCP8.5とSSP3では、影響人口が最も多いのは中国で約3,400万人、国の人口に対する割合が最も大きいのはべトナムで約50%となりました(Figure.4)。


 Figure 4. 2100年の国別影響人口
  Figure 3. 影響人口の経年変化

被害額

 先進国も途上国も一律に被害額を推計した場合、被害額はSSP1が最も大きく、SSP3が最も小さいことが分かりました。また被害額は2100年において約1,500~4,000億US$と推計されました(Figure.5:左)。次に、各国の一人当たりGDPを3つの経済レベルで分別し被害額を推計します。経済レベルの分別方法は、国ごとの一人当たりGDPを、世界銀行の所得区分(2014)と比較し、Low:≦$4125、Medium:$4126-$12735、High:≧$12736の区分に分け、被害額を推計します。経済レベル別の被害額は、全球で一律に推計を行った場合と同様に、SSP1が最も大きく、SSP3 が最も小さくなります。また被害額は2100年において約1,700~4,800億US$と推計されました(Figure.5:右)。


  被害額の経年変化(経済レベル別)
Figure 5. 被害額の経年変化(全球一律)